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実用アナログ回路

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技術解説 Siダイオードを使用した温度検知回路

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実用アナログ回路

【始めに】

インターネットによる情報化社会の発展と広がりは目を見張るものがあります。少し前までは、ローカルなハードウェア機器の代表選手であった家電製品などもデジタル技術の急速な進歩でIoT「モノのインターネット」と呼ばれる情報化融合技術により情報デジタルネットワークへの接続も当たり前になってきました。

そんな中でアナログ技術は、より一層重要さが増しています。何故ならそれらのモノ(道具、装置)を利用するのは人間であり、人間は、アナログな感知感性しか持っていないからです。従って、人間から機械に命令を行う(入力)のも、機械の仕事(出力)もアナログである必要があります。

この技術コンテンツでは、、主にアナログ技術による実用的な応用回路例を紹介します。

Siダイオードを使用した温度検知回路

温度検知の必要性

ハードウェアとしての電子回路はプリント基板に様々な電子部品を実装します。制御回路の各部品に電気エネルギーとしてDC電源を印加し、各部品、基板パターン配線上に電流が流れ、様々な電気機能を実現します。

電流が流れれば、電気エネルギーの一部は熱に変換されます。この電流が多いほど、発生する熱も多くなります。結果的に各部品での発生熱が累積され基板の温度が上昇します。

当然、回路設計時には製品仕様の温度範囲をカバーする様に設計をしますが、実際に動作している基板の温度は、逐次変化しています。想定外の事態で、設計想定以上の温度になった場合にでも基板回路が故障しない様(または、接続する周辺装置へ二次的な故障影響を及ぼさないため)にリアルタイムに監視が必要です。

過温度を検知して回路を保護(TSD:Thermal shut down)する目的でフェイルセーフ機能を持つギミックを設けることが多いのです。

安価で高信頼性のSiダイオードの温度特性を利用した温度センサー

温度センサーは、周辺温度変化に対する温度変化特性を利用するもので温度センサーとして利用できる部品には様々な種類があります。

温度センサーとして最も普及しているものでは、サーミスタと呼ばれる薄膜抵抗素子がありますが、製造供給メーカがある程度限られることと、通常の抵抗器に比べて高価なことが難点で測定したいポイントが多くなるとコストが嵩む欠点があります。

そこで、本稿では、サーミスタに代替え可能な温度センサーとしてシリコンダイオード(PN接合型Si Diode)を利用した方法を紹介します。

Si Diodeの特長
●供給メーカが多い
●市場流通量が多くいつでも手軽に入手できる
●安価である
●動作安定性に優れる
●壊れにくい
●信頼性が高い
Siダイオード温度検知回路実験

このSi Diodeを使用した温度検出性能を検証してみます。下図にSiダイオードを利用した温度検知(TSD)回路例を示します。

温度検知(TSD)回路例

回路図中のD1,D2が、温度センサーに使用するSiダイオードです。Siダイオード1個あたりのVFは約0.7Vです。この回路では、検出精度を上げるために、ダイオードを2個使用し2倍のVF(約1.4V)にしています。

動作原理

5V電源V2より、直列に接続したD1,D2からR1+R2の抵抗に電流が流れます。回路図中Vinの電圧は、次式で決定されます。

Vin =(5V-(VFD1+VFD2)) × R2/(R1+R2)

Siダイオードの順方向電圧(VF)は、約-2mV/℃の温度係数を持っています。温度が周囲温度が上がると、SiダイオードのVFは減少しますから、上記式で考えると周囲温度の上昇に比例してVinは高くなっていく原理です。

回路図右側の差動コンパレータ(リニアテクノロジー社製LTC6702)にて予め設定した基準電圧Vref(この例ではVref=2Vに設定)と、温度検知値Vinと比較して、2V(設定温度上限)を越えるとコンパレータの出力が量子的に"0"(Low)→"1"(Hi)に反転する様にしてあります。

この回路をアナログ回路シミュレータSPICEを使用して回路動作を検証します。ここでは、リニアテクノロジー社が提供しているLTspiceを使用しています。

Siダイオード温度検知回路のシミュレーション結果

周囲温度を-25℃~175℃まで可変した時のVinの電圧をシミュレーション結果です。

Siダイオード温度検知回路のシミュレーション結果
  • ●検出温度係数≒-2mv/℃
  • ●Vref設定=2Vに達する温度は、110℃

と想定通りの回路特性が得られました。設定温度上限値は、R3,R4の分圧比でVref値を設定することで上限温度が任意に設定できます。

上記回路のコンパレータ出力で、制御器(マイコン、ドライバアンプ、電源など)をOFF(停止)し、リセットを掛けることで過剰な温度上昇による誤動作や故障を防ぐことができます。