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技術解説 モータの概要と種類

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モータの制御

「モータ制御」の技術解説は、過去には半導体メーカーでモータードライバーIC開発の豊富な経験を持ち、現在も第一線で半導体を使う立場のセット開発に携わる技術者が、主にモータの駆動や制御に関して開発上の技術やノウハウを具体的な事例を基に紹介します。

モータの概要と種類

初回は駆動回路や制御回路解説の準備編としてモータの仕組みや種類を紹介します。

1章 モータ制御

モータとは「何かに動きをあたえたり、運動させるもの」のことです。モータ(motor)の語源はラテン語の「moto-r(動きを与えるもの)」からきています。

モータは、日本語では電気式動力装置(電動機)と呼んでいます。電気エネルギーを機械エネルギーに変換するものが電動機であり、一般にモータ(electric motor)と呼ばれます。

モータは、19世紀の始め頃にヨーロッパで発明されました。電磁誘導の発見、電磁石の実用化に始まり、現在では、直流(DC)モータ、交流(AC)モータ、誘導(induction)モータ等、様々な用途、シーンに合わせて多くの種類のモータが利用されています。

1-1 モータの効率の重要性

モータは電気エネルギーを入力し、機械的動力エネルギーに変換し出力します。エネルギー変換のプロセスで入力の一部は動力とならずに、意図しない熱になってしまいます。この利用できないエネルギーを「損失」と呼びます。

入力電力、機械出力および、損失との関係概念は次式で表されます。
入力電力 = 機械出力 + 損失
また、入力電力と機械出力は、それぞれ以下の式で定義されます。
入力電力[W]= 電圧[V]× 電流[A]
機械出力[W]= 回転速度[rad/s]× 回転力[Nm]
モータの効率は、入力電力に対する機械出力の比率になります。
モータ効率 = ( 機械出力 ÷ 入力電力 ) × 100 [%]

因みに日本では、総発電量の約60%がモータで消費されています。地球全体でも電力消費の約半分がモータでの消費とも言われています。2016年の世界の消費電力量は21兆kWhです。地球上の全てのモータの効率を1%改善できれば約1000億kWh(原発11基分に相当)の膨大な省エネにつながります。地球環境を保ち、省エネルギー社会を実現するためには、モータの高効率使用が重要と言えます。

2章 モータの原理

モータには多くの種類があります。「なぜ多くの種類が必要なのか?」というと、色々な用途や使用条件の全てに適合する理想的なモータというものはないからです。どの種類のモータでもメリット(長所)があり、デメリット(短所)もあります。モータに多くの種類があるのは、先人達が必要に応じて都度さまざまな工夫を凝らし特質の異なるモータを生み出してきたからです。私たちは、使用目的に応じてより効率よく仕事のできるモータを選ばねばなりません。

2-1 電磁モータの原理と構造

ここでは、一般的に最も広く多く使用されている電磁石を使用した電磁モータの原理を見ていきましょう。

2-2 電磁石とは

多くのモータは磁石と磁石の間の磁気的な吸引力や反発力を利用しています。連続的な運動を得るためにはどちらかの磁石の極性を連続的に変化させる必要があります。電磁石は電流を流す方向によって極性が変られたり、流す電流に応じて磁力の強さを変えられます。導線に電流を流すとその導線の回りに磁界を生じる「アンペールの右ネジの法則」を利用しています。電磁石は磁力を通し易い(透磁率の高い)鉄心に導線をコイル状に巻き付けることで強力な磁石を作る事が出来ます。

アンペールの右ネジの法則
2-3 ブラシモータの構造と動作

ロータに対向して取り付けたステータ(固定子)の永久磁石のN極、S極に対する「同じ磁極どうしでは、反発する力」と「異なる磁極同志では、引き合う力」を利用してモータ軸を回す仕組みです。この原理作用を利用して、永久磁石のステータとコイルを巻いたロータ、ブラシで構成し、回転軸に付いた整流子の回転移動により、ブラシ電極への接続が順次変化しロータの磁力の向きが変わることで、推進力が発生しロータが回ります。このコイルの電流方向とタイミングを制御する事でロータに発生する磁界と磁極を順番に切り替え、回転制御します。

ブラシモータの構造

3章 モータの種類

現在、使用されているモータを紹介していきます。

3-1 ブラシモータ

整流子電動機(commutator motor)がブラシモータです。直流(DC)モータの中でも最も多く普及しており、一般的に「DCモータ」と呼ばれています。または、DCブラシ付きモータや単にブラシモータとも呼ばれます。2章で紹介した様にロータにコイルが巻いてある部分が電磁石になります。整流子とブラシを持つ事が特長のモータです。コイルに流れる電流を回転位相に応じて磁極と磁界を切替える事で回転モーメントを一定方向に保つ(回転運動)動きをします。電気回路は単純でとても使い易いのですが、機械接点となるブラシは摩耗し減るためブラシの寿命でモータの寿命が決まってしまいます。

3-2 ブラシレスDCモータ

ブラシ付きモータの欠点であるブラシ、整流子の機械接点を持たない構造です。代わりに電気スイッチ回路で電流方向と位相を制御し回転動作させます。ブラシモータに比べ、長寿命で静音性に優れます。交流位相制御を行う必要がありますが、整流子を持たない構造のため、ロータ位置の検出に位置センサ(ホール素子、エンコーダなど)を取り付けたセンサ制御や、コイル各相の誘起電力を検出するセンサレス制御など複雑な電気制御回路が必要になります。

3-3 ステッピングモータ

電気エネルギーをコイル各相に順番にパルス印加し、この入力パルスに同期動作させるモータです。パルスモータとも呼ばれます。ブラシレスモータに比べ割合い簡単な制御で精密な位置決め運転が行えますが、位置決め保持時には電流が流れ続けるため、電力消費が大きい欠点があります。

3-4 交流(AC)誘導(induction)モータ

交流電流位相により固定子に回転磁界を発生させることで回転子に誘導電流を発生させ、相互作用で回転します。

3-5 AC同期モータ

交流が作る位相磁界により磁極を持つ回転子が吸引、追従することで回転します。回転速度は交流電源の位相周波数に同期します。

3-6 リニアモータ

直線運動を得られるモータです。一例として円形に配置したブラシレスモータのステータを直線的に必要な距離の間に敷き詰めたモータ(アクチュエータ)で、ローター部分が直線的な運動をします。オーディオスピーカも一種のリニアモータです(固定した永久磁石と可動電磁コイルが発生する振動を振動版で音に変換します)。このため同様な構成のリニアモータはヴォイスコイルモータ(VCM: Voice Coil Motor)とも呼ばれます。

3-7 超音波モータ

超音波モータ(USM: ultrasonic motor)は、金属製弾性体(振動子、ステータ)で発生する数μmの共振動を、摩擦力によって移動子(ロータ、スライダ)を回転運動や、並進運動に変換するモータです。共振周波数が、可聴域外(約20kHz以上)にあることから超音波モータと呼ばれています。固有振動は、振動子内部に配置された圧電セラミックス(ピエゾ素子)により発生させます。ピエゾを使う事からピエゾアクチュエータとも呼ばれます。

超音波モータの特長を下記に示します。

<利点>
低速・高トルクを有し、機械的な摩擦抵抗を持つため、減速機構が不要で保持トルクが高い
静音性に優れる
磁石を使用しないため、軽量で電磁波を発生しない
<欠点>
磨耗が大きいため、耐久性に劣る(寿命が短い)
高速運転が苦手
電気回路が複雑(高周波電源、駆動回路)

超音波モータは、利点を活かし、デジタルカメラの光学制御(オートフォーカス)や電子顕微鏡、半導体製造装置、マイクロマシン装置などの精密位置決め機構に利用されています。また、磁力を使用しないモータという特徴を活かして医療診断機器(MRI)や宇宙ステーションでの実験設備等にも用いられています。

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